サンタフェ鉄道の歴史的鉄道遺構
現役で活躍するものを「遺構」と言っては失礼かもしれない。
先日乗ったアムトラックのサウスウエストチーフ号、ニューメキシコ州走行中にチラッと見えた信号機。「え、腕木.....?」
その後は見かけることもなく確証は無かったが、帰ってから調べてみると、確かにニューメキシコ州、RatonとLas Vegasとの間にはサンタフェ鉄道時代から残る「腕木式信号機」が現役で活躍しているらしい。
腕木式信号機とは、信号機から突き出した腕が物理的に動くことで「進行」や「停止」を指示する信号機である。かつては世界中の鉄道で見ることができたが、現在ではその多くがライトの色で列車の進行を指示する「色灯式」に置き換えられ、ほとんど見ることができない。
日本でも近年までローカル線でその姿を見ることができたが、色灯式への置き換えや、路線自体の廃線によって、2008年現在では青森県の津軽鉄道に数本が残るのみとなっている。下写真は津軽鉄道、五所川原駅の場内信号機。
宮沢賢治の短編、「シグナルとシグナレス」にその腕木の動きによって感情を描写するシーンがある。腕木信号機がほとんど無くなってしまった現代、その情景をイメージすることは難しくなっているかもしれない。
腕木・ハエタタキ・短尺レール
さて、アムトラックのサウスウエストチーフ号は、旧アッチンソン・ピカタ・サンタフェ鉄道の路線を使い、シカゴとロサンゼルスの間を結ぶ旅客列車である。サンタフェ鉄道は1996年にバーリントン・ノーザン鉄道に吸収され、現在ではバーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道(BNSF)の一部となっている。
サンタフェ鉄道の路線の大部分は時代とともに整備され、信号も近代的な色灯式のものが用いられているが、なぜかニューメキシコ州北部、Raton付近のみ、現在でも腕木式信号機が活躍する区間が残されているのだ。長大貨物列車やアムトラックの寝台列車の行き交う一級幹線に21世紀まで腕木信号機が残されているのは奇跡としか言いようがない。
それも、何年も前から置き換えがアナウンスされており、本来ならもうすでに撤去されているはずのものらしい。
アメリカらしい雄大な景観の中を駆け抜けるアムトラックの長距離列車と腕木信号機。それも近日中に姿を消すという。いてもたってもいられなくなり、後日取材(?)に駆けつけた。
ワゴンマウンド(Wagon Mound)付近をサウスウェスト・チーフ号が高速で駆け抜ける。ワゴンマウンドは周囲を断崖絶壁に囲まれた同名の孤峰(butte)の名前に由来する地名である。ちなみに、このあたりの定期旅客便の発着する最寄の空港はニューメキシコ州アルバカーキか、またはコロラド州コロラドスプリングス。どちらからも約300km離れている人口希薄地帯である。
腕木が上を向いているときが「進行」、斜め上が「注意」、横向きが「停止」を表す。日本の腕木信号機では下向きが「進行」、横向きが「停止」で若干異なる。また日本では通常「進行」「停止」の2状態の現示で、「注意」も含めた3現示式のものは見たことが無い。
この指示は電線によって伝えられるが、線路脇にはその電線を設置するための電信柱が設置されている。かつて日本ではその見た目から「ハエタタキ」と呼ばれていたものだ。
その他にも、この付近では短尺レールや木製の橋脚など、まるで50年前にタイムスリップしたかのような鉄道情景が展開されている。
Wigwagって?
腕木式信号機と同様に、アメリカで絶滅の危機に瀕している鉄道施設にWigwagがある。日本では使われることがなかったので我々にはピンと来ないが、Wigwagはかつてアメリカで広く用いられていた踏み切り警報機だ。
列車が接近すると、カンカンという警報音が鳴ると同時に、上部の円盤の赤ランプが点灯し、左右に首を振るしかけだ。かつてはアメリカのどこでも見られた踏切警報機だそうだが、日本と同じ2つのランプが交互に点滅するタイプに置き換えが進み、現在では極めて数が少なくなっている。
サンタフェ鉄道沿線もニューメキシコ州内は既に絶滅、コロラド州では北部のDelhiに1箇所のみが現存している。
腕木信号機にせよWigwagにせよ、機械的な動作を伴うシステムはメンテナンスを怠れば錆や磨耗によって動かなくなる。コストに厳しく、合理社会のアメリカでこの人手のかかるシステムが今日まで残っていることははっきり言って驚きだ。
ずいぶん前から置き換えがアナウンスされているとはいえ、幸運にも21世紀にまで生き延び、さらに毎日働き続けていることを素直に喜びたい。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)






















最近のコメント