from Los Angeles to Boston by rail
アムトラックで大陸横断
日本に出した仕事メールの返事が来ません。どうやら日本は全国的に夏休みのようです。それならば、とロサンゼルスからボストンまで、アメリカ合衆国を東西に横断する鉄道の旅をしてみることにしました。
アメリカ合衆国の西海岸と東海岸が鉄道で初めて結ばれたのは1869年のこと。1862年、国策としてセントラルパシフィック鉄道とユニオンパシフィック鉄道の二社が設立され、セントラルパシフィック鉄道はカリフォルニア州サクラメントから東に向かって、ユニオンパシフィック鉄道はネブラスカ州オマハを基点として西に向かって建設を進めました。
建設開始から6年後、ついにユタ州プロモントリーサミットで接続。これ以降、アメリカでは10年で路線の総延長が二倍になるペースで鉄道の建設が進み、1882年にはアッチンソン・トピカ・サンタフェ鉄道がロサンゼルスまで至るルートを、1883年にはノーザン・パシフィック鉄道がシアトルに至るルートを相次いで開通させ、アメリカ合衆国は、1900年代初頭に国内の鉄道延長40万キロにも達する鉄道大国となります。
日本を始めとして多くの国々では主要な幹線鉄道は国によって建設・管理されてきましたが、アメリカではそのほとんどが民間会社によって行われてきたことが大きな特徴です。旅客列車についても、各社の特徴を活かした多様な列車が運行されました。
しかし第二次大戦が終わると、旅客輸送は飛行機や自動車へと急速にシフトします。1960年代には長距離旅客列車は激減し、全ての長距離旅客列車が廃止されるのではないかと懸念されました。1971年、合衆国内の鉄道旅客輸送を存続させるため、それぞれの鉄道会社の旅客部門を統合して、全国の旅客列車を一元的に運営する公営組織として、アムトラックが設立されました。
東西を結ぶ大陸横断列車も、シアトルルートはエンパイアビルダー号(Empire Builder)、サクラメントルートはカリフォルニアゼファー号(California Zephyr)、ロサンゼルスルートはサウスウエストチーフ号(Southwest Chief)として現在でもこのアムトラックが主体となって運行されています。
なお、長距離旅客輸送ではほぼ役目を終えた鉄道ですが、他国とは比較にならないほど大きな国土を持つアメリカ合衆国のこと、現在でも貨物輸送においてはトン・キロあたりの鉄道のシェアは40%を超え、「鉄道大国」であることに変わりはありません。かつては無数の鉄道会社が存在しましたが、近年では統合が進み、今は7つの貨物専業会社が22万キロあまりの鉄路を維持・管理しています。アムトラックが運行する列車も、一部を除いてこれら貨物輸送鉄道の線路を間借りする形で運行されています。
しかし、やはりアムトラックの経営は厳しく、設立以降黒字になったことはありません。近年、同時多発テロや原油価格の急騰で、再び航空機や自家用車から鉄道へ回帰する傾向があるものの、現在でも依然としてアムトラックの全ての列車が赤字と言われています。
アムトラックはシカゴのユニオンステーションをハブとしており、多くの列車がシカゴを基点としています。今回はロサンゼルスからシカゴまでを「サウスウエスト・チーフ号」、シカゴからボストンまでを「レイクショア・リミテッド号」を利用する合計三泊四日の列車の旅です。
(画像はクリックすると少し拡大します)
では参りましょう、All aboard!
サウスウエスト・チーフ号
サウスウエスト・チーフ号は、ロスアンゼルスのユニオンステーションからシカゴまで、3,600km余りを所定42時間35分で結びます。名前は、1936年に運行が開始された旧アッチンソン・トピカ・サンタフェ鉄道の「スーパー・チーフ号(Super Chief)」に由来するものです。その名も西部開拓時代の「大酋長」、旧スーパー・チーフ号は、ロサンゼルスへの大陸横断ルートを建設したサンタフェ鉄道の威信をかけた看板列車でした。1971年にサンタフェ鉄道からアムトラックに運行が移管されたものの、あまりのサービスの低下にサンタフェ鉄道がアムトラックに対し「スーパー・チーフ」の名前の使わないよう申し入れた関係で、現在の名前に落ち着いたという経緯があります。
列車は「スーパーライナー編成」と呼ばれる2階建ての客車です。この日は機関車2両に続いてスタッフ用の車両とバゲッジカー(荷物車)、スリーパー(寝台車)が3両、食堂車、ラウンジカー、コーチ(座席車)が3両の順で12両編成でした。
予約したのはルーメット。昼間は2人がけ、夜は2段ベッドになる個室で、最大2人で利用できます。スリーパーには、他にトイレつきのベッドルーム、最大4名で利用できるファミリーベッドルームがあります。
車掌の他に、寝台車にはアテンダントと呼ばれるスタッフが乗務していて、食事の予約、寝台のセットや各種案内などを担当しています。その他、寝台車にはトイレ、コーヒーサーバー(飲み放題!)、シャワー室などの設備があり、とりあえず暮らすのに不自由することはありません。
食堂車。スリーパーの客は、行程を通じて食事、ソフトドリンクは無料(というか運賃込み)です。ただしアルコールは有料。
ラウンジカー。天窓が開放的。
ラウンジカーの1階はカフェスペースで、軽食類が購入できます。
ロスアンジェルスからシカゴへ
旅立ちはロサンゼルスユニオンステーション。1939年に建設されたターミナル駅で、サザンパシフィック、ユニオンパシフィック、サンタフェ鉄道が使用してきました。現在ではアムトラックと通勤列車のメトロリンク、空港バス(FlyAway)、地下鉄レッドラインが発着しています。
中庭を持つ白亜の建物で、中も外光をうまく取り入れるつくりで明るく、全米第二の都市の代表駅というよりは、どこか南国リゾート地を思わせます。
東行きのサウスウエストチーフ号の出発時間は18:45分。乗り込むと発車前にアテンダントが食堂車の予約を取りに来ます。初回19:15を予約しましたが、少し発車が遅れた関係か、時間ぴったりに行ったらまだ準備中でした。「呼ぶまで待っててください」だそうです。すんません。
食堂車は、4人未満のグループは、基本的には相席になります。スリーパーの客層は、家族連れかリタイアした老夫婦が多いので、外国人の一人旅でもそれほど気構える必要はありません。とりあえず話の最初は「どこから来てどこに向かっているか」、で決まっていますしネ。
席に案内されると、給仕からスリーパーの客かどうかをまず聞かれます。伝票に車両・部屋番号を記入してサインすれば、あとはアルコール以外支払いの必要はありません。ただし席を立つ際にはチップを置きましょう。
夕食から帰ってくると、その間に寝台がセットされていました。東海岸とは3時間の時差があり、これから毎日1時間ずつ時間が早くなります。早寝・早起きを心がけることにします。
ロスアンゼルスを発って約10時間、夜が明け始めました。列車はアリゾナ州フラッグスタッフに到着します。
フラッグスタッフはの住所は"1 East Route 66, Flagstaff, AZ"、そう、かつての大陸横断国道、ルート66沿いの駅なのです。実はこのサウスウエストチーフ号、旧ルート66とほぼ同じ地域を走ります。
列車はロッキー山脈の南部を迂回するように進みますが、既にフラッグスタッフの標高は7000フィート(約2,100m)あります。きょうはまる一日、標高1,500m以上の地域を進むことになります。空気が薄いのでお酒の飲みすぎには注意。
フラッグスタッフを出発した列車は、赤土の大平原を快調に飛ばします。人家はまばらですがここは合衆国の物流を担う一級幹線、40フィートコンテナを二段重ねにしたダブルスタックコンテナ列車や、トラックのトレーラーをそのまま貨車に搭載したピギーバックの貨物列車と頻繁にすれ違います。
2日目正午、ほぼ定刻に列車はニューメキシコ州アルバカーキに到着。ここで機関車に給油が行われるため、乗客も小休止です。
アルバカーキを出ると本格的な山越えとなり、針葉樹林の中をゆっくりゆっくり、いくつものΩカーブを超えていきます。標高が最高になるのもこのあたり。
夜が明けると、列車はカンザス州へ入っていました。もうロッキーの山越えの雰囲気はありません。朝霧が幻想的。
やがてカンザス州の中心都市、カンザスシティに到着。ここで多くの乗客が入れ替わりました。
そして行程最後の大イベント、ミシシッピ川を渡ります。ミシシッピ川は"The mighty Mississippi"と呼ばれ、北米に豊かな恵みをもたらす母なる川です。このあたりは川幅2km以上あります。まるで湖ですね。
ミシシッピを渡ると広大な農村地帯に入ります。シカゴへラストスパートです。
途中1時間程度の遅れはありましたが、ほぼ定刻3時半前にシカゴへ到着。北米全ての鉄道はシカゴへ通ず、と言っても過言で無いほど、シカゴは古くから鉄道の要衝でした。アムトラックの多くの長距離列車もシカゴを基点としています。
アムトラックの長距離列車同士の乗り継ぎもよく考えられたダイヤになっていて、東海岸からシカゴに至る列車は午前中着、シカゴから西海岸に向かう列車は午後発、西海岸からシカゴに至る列車は午後着、シカゴから西海岸に向かう列車は夜発になっています。
シカゴユニオンステーションは1925年にできた石造りの建物で、 高さ34mの巨大な待合室が特徴です。現在ではアムトラックと近郊通勤列車のメトラが使用していますが、地下鉄やループが直接乗り入れていないので、通勤時間帯を除けば閑散としています。
写真はシアーズタワーを背景にシカゴを出発する通勤列車Metra。
レイクショア・リミテッド号
レイクショアリミテッドはシカゴとニューヨーク、ボストンを結ぶ列車です。かつてはニューヨーク編成・ボストン編成を併結して途中ニューヨーク州アルバニー駅で切り離しを行っていましたが、現在では全編成がニューヨーク行きで、ボストンへはアルバニーで同一ホームで接続する別の列車へ乗り換えとなっています。ニューヨークまでは1,500km余りを20時間40分、ボストンまでは1,600km余りを22時間45分かけて走ります。
レイクショアという名前は、北米五大湖のうち、ミシガン湖、エリー湖、オンタリオ湖の三湖のほとりの町を経由することに由来しています。
レイクショアリミテッドは、「ビューライナー編成」を使用しています。この日は機関車2両に続いてバゲッジカー(荷物車)、スリーパー(寝台車)が3両、食堂車、ラウンジカー、コーチ(座席車)が4両の順で12両編成でした。
「ビューライナー編成」は、サウスウエストチーフ号で利用した「スーパーライナー編成」とは違い、ダブルデッカーではありません。東海岸に向かう列車は、一部電化区間を走行するため車両限界が小さく、一回り背の低い車両になっています。しかし、その分個室は余裕のあるつくりになっていて、ルーメットにも全室トイレ・洗面台が着いています。屋根裏に荷物収納スペースも。折りたたみテーブルはなぜかチェス盤。
食堂車。車両中央にギャレーがあります。
ラウンジカー。こちらも車両中央にカフェ(販売スペース)があるためラウンジは半室構造で、天窓も無いので、二階全室が天窓つきのフリースペースだったスーパーライナー編成のラウンジカーと比較すると、簡素な印象を受けます。
シカゴからアルバニー・ボストンへ
列車は接続列車遅延のため、1時間ほど遅れた23時頃にシカゴを出発しました。出発を待つ間、食堂車ではチーズが振舞われ、アルコールなどが販売されていました。発車するとすぐに東部時間になります。既に深夜帯ということもあって、すぐに寝台をセットして皆さん眠りにつきます。
この列車、湖岸を走る列車ですが、西行き、東行きともに湖岸を走る時間は夜間で、線路もそれほど湖に近くないので、実際のところ湖面を見るチャンスはほとんどありません。
むしろ、Uticaを過ぎると、ずっとモホーク川(Mohawk River)沿いを走り、こちらの景色が良い感じです。
シカゴからアルバニーまでは、湖岸と川岸を走ることもあって、ほとんど起伏はありません。最高地点も300mほどです。トウモロコシ畑の広がるなだらかな丘陵地帯を走ります。
列車はシカゴからの遅れを更に拡大させながら、およそ1時間20分遅れてアルバニーに到着しました。アルバニーは人口10万人足らずの小さな町ですが、ニューヨーク州の州都です。
列車とずっと寄り添ってきたモホーク川はここアルバニー付近でハドソン川に合流し、遠くマンハッタンで大西洋に注ぎます。
ここからはボストン行きの編成に乗り換えです。同じ「レイクショア・リミテッド」の名前を冠する列車ですが、機関車に続いてバゲッジカー、カフェカーに続いてコーチ車が僅か2両。さびしいものです。
時刻表上は、ニューヨーク行きの編成はここアルバニーで1時間15分もの停車時間があり、接続するボストン行きが発車した後、ニューヨーク行きが発車するスケジュールになっています。ニューヨーク行きの編成はシカゴから16時間走り続けてきているため、おそらくここで給油することになっているのだと思われますが、今日は遅れのため、ボストン行きより先に機関車を付け替えてそそくさと発車して行きました。あらかじめ満タンの機関車を用意してそれに付け替えることで、給油の時間を節約しているのでしょう。
割りを食ったボストン編成は17時30分、ほとんど遅れを回復することなく1時間20分ほど遅れてアルバニーを出発しました。
しかし、ここからは爆走でどんどん遅れを回復し、所定より約15分遅れてボストン南駅に到着。お疲れ様でした。
西海岸ロサンゼルスから東海岸ボストンまで、5,200km。飛行機の格安チケットを使えば200ドル台で往復できる今、片道所要時間72時間15分、料金約$1,200は、時間的にも、金銭的にも非常に贅沢な旅です。
しかし、食事のテーブルでの同行の旅人との出会い、流れ行く景色を心行くまで眺める至福。何時間もの遅れを笑い飛ばす余裕。21世紀に生きる我々に残された数少ない心の贅沢の一つです。
近年まで数多くの夜行列車が西へ東へ雁行していた日本でも、年々夜行列車が廃止され、現在では数えるほどになりました。アメリカでも、巨額な赤字に毎年のようにアムトラック解体が議論されています。もしかしたら数年後、アメリカに長距離列車は走っていないかも知れません。
いつかは乗ってみたい、と思っている人は多いはずです。でもおそらく、いつまでもあるものではありません。ちょっとの時間とお金の余裕を作れるみなさん、是非体験してみてはいかがでしょうか。
おまけ。食堂車でのお食事集。
1日目ディナー(ビーフ)
2日目朝食(チーズオムレツ)
2日目ランチ(ローストビーフ)
2日目ディナー(テラピア)
3日目朝食(フレンチトースト)
3日目ランチ(バーガー)
4日目朝食(スクランブルエッグ)
4日目ランチ(バーガー)
旅行の前後で3キロ体重が増えました。マジで。タダだからってデザートまでしっかり食べるのがいけないんだけどさ。ヽ(`Д´)ノウワァァァン
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